8月末に北海道を訪れた橘 俊夫理事長は、ある人相・手相の鑑定師と出会った。生年月日と出生地だけを伝えたところ、座った途端に性格や使命を言い当てられ、左手の手相まで見てもらったという。そこで語られたのが、「宿命が全体の25%、与えられた環境が25%、残りの50%は生き方と心のあり方」という言葉だった。生まれ持ったものと置かれた環境で半分、残りの半分は自分がどう生きるかで決まる——その一言に、理事長は強く感じるものがあったという。
あわせて理事長は、8月に熊本の「浮遊街」を実際に訪ねた。そして自らも一口100万円の「親方」として出資し、代表の坂井勇貴氏を今回の講師に招くに至った。親方には年10%相当の地域通貨Uiiが配当され、会場の飲食や宿泊にもそのUiiが使える。貯め込むのではなく、使うことで人の関係が生まれる仕組みを、理事長自身が参加者として体験している。
人生の半分は自分では選べない。残りの半分は、自分がどう生きるかで決まる。
「それぞれに与えられた才能を、人との比較ではなく、自分がやりたいことをどう生かして生きるのか——それが社会全体になっていったら素晴らしい」
坂井氏は長野県出身。約20年前からエコビレッジやコミュニティのあり方を旅しながら研究し、2011年、東日本大震災をきっかけに熊本県宇城市三角町でエコビレッジ「三角エコビレッジSAIHATE」を立ち上げた。「ルールもない、リーダーもいない、お好きにどうぞ」で村を作ったら何が起こるのかという実験は、実際にやってみると「とてもカオス」になったという。それでも12年間、人の営みと関係性を実証実験として積み重ね、2022年には社会課題解決企業群ボーダレスジャパンのアワードで最優秀賞を受賞した。
転機1
警察も医者もいない人口100人の島に、健康そのものという風体の漁師の男性がいた。ただ1人だけバイクでヘルメットをかぶっていたのは、免許を持っていなかったから——ルールがない場所でも、人は自分なりの秩序をデザインしている。
転機2
2025年5月、坂井氏はこの場所を法人化し「浮遊街(Floating City Uii)」として再始動させた。1万坪のプライベートな敷地にカフェやプール、土のドームハウス、ゲストハウスが広がり、現在「街人」と呼ばれる会員は330人、一口100万円を出資する「親方」も46人に達している。
坂井氏が今回打ち出したテーマは「サーキュラーベーシックインカム」。もしAIが人に代わって多くの仕事を担う時代が来たとしても、人間が豊かに生きられる仕組みはつくれるのか——その仮説の中心にあるのが「循環」だ。
「人間の豊かさは、お金の量ではなく、循環の量で増やせないか」
1000人の街人がそれぞれ10品の商品やサービスを出品すれば、1万アイテムのマーケットが生まれる。そこに1000万円を配り、3か月で「腐って」消えるコインにすることで、貯め込まずに使う動機を生み出す設計になっている。
この仕組みを支えるのが、新井和宏氏が代表を務めるeumo株式会社の地域通貨プラットフォームだ。日本円の年間の流通速度は0.45回程度にとどまり、貯め込まれてしまえば経済は回転しない。
「日本円で1万円を回そうとしても、4500円しか返ってこない。だから一度、手放していただく仕組みにしないと、うまく回らない」
一方、腐る設計を持つコイン「Uii」は、実験前から年間4回転以上は確実で、実際には1ヶ月以内に使われる例がほとんどであることから、通常8〜12倍の間で回転しているという。ただし、それには街人となった1000人が実際に商品やサービスを出品することが欠かせない条件になる。
腐るお金は最終的にeumoの発行元に戻る仕組みになっており、行き場を失ったコインもオンラインストアで確実に使い切れるようになっている。1000万円の元本が循環を通じて1億4000万円分の経済効果に育つ可能性がある——その仮説を実際のデータとして残し、論文や研究機関との連携を通じて社会に発信していく計画だ。





Q浮遊街に行けない人は、どうやって参加できるのか?
A一番身近な参加方法は、年会費3万円の「街人」になること。今の特典では4泊分の宿泊チケットと5000円分のコイン(Uii)がキャッシュバックされ、クエストに関わってコインを稼ぐことも、オンラインのマーケットに出品することもできる。参加した初日は手伝いながらコインを稼ぎ、次に来るときは友達に会いに行く感覚になり、通うほど自分の居場所になっていく。実際に会員の9割ほどは年に数回、宿泊チケットを使って訪れる程度で、残り1割ほどが2週間以上滞在するリピーターになっている。
Q合気道のような「見えない価値」を、どうやって金額に変えればいいのか?
A価格は自由に決めて構わない。安ければ売れやすく、高ければ動きが悪くなる——それ自体がテストマーケティングになる。腐る経済圏では日本円よりコインを使いたがる人が多いため、普段なら買わない人にも試してもらいやすい。オンラインでも、Zoomでのサービス提供や物品の郵送などの形で提供できる。
Q人が集まれば必ず人間関係の問題が起きると思うが、どう対処しているのか?
A20年近くコミュニティを続けてこられたのは、相手の「ドラマ」に飲み込まれないようにしているから。「かわいそう」と訴えられても、それはその人自身の物語であり、みんなで作っているコミュニティの物語とは分けて受け止める。怒りや悲しみの奥にある「満たされなかったニーズ」を掘り下げ、日常の些細な変化をみんながキャッチできるような対話の場を重ねている。
Q三角エコビレッジSAIHATEが結果的にうまくいかなかった要因は何で、そこから何を今の浮遊街に活かしているのか?
A以前の「三角エコビレッジSAIHATE」時代は、お金や経済そのものに反発する気持ちが強かった。その結果、コミュニティの熱量や希望が乏しくなってしまったという反省がある。ただビジネス化するだけでは商業施設になってしまうため、お金が持つ力を、いかに関係性や豊かさに変換できるかを課題として、今の設計に活かしている。
開催 一般財団法人レオ財団 第153回月例会
(2026年9月)
会場 ル・クロ・ド・マリアージュ
レストラン&ウェディング
司会 西村 実花
(一般社団法人「こどものみかた」代表)
講師 坂井 勇貴 氏
(コミュニティデザイナー/「浮遊街Uii」代表)
本日は誠にありがとうございました。今日、このタイミングでお聞きできたからこそ、より深く考え、様々なことが見える機会となりました。8月末のアイヌの長老と過ごす旅を経て、地元の東北・山形で数日過ごし、白寿の祖父(杖なし、補聴器なしで、毎日元気に畑仕事をしています)とも長く過ごし、9歳の時から社会を変えないと!というのがありますが、これからの社会をどのようにつくっていけばよいのか?これまで以上に様々なところに想いを馳せる時間となりました。本当にありがとうございました。
H.S.浮遊街のことは白鳥監督の回の時に知り、「こんな素晴らしいアイデアで実際に動いている方がいらっしゃるんだ」と感動いたしました。今回は「子どもは外で遊ぶのが仕事」というお父さまの教育方針と、6歳の子が「学校に行きたくないのは自分らしく居られないからだということがわかった」と言ったということが心に残っています。今回、改めて浮遊街のことを検索しましたが、オンラインショップの情報が少なく、「やはり実際に行かなければ参加は難しいのかな」と感じました。
T.I.街づくりは、建物や制度を整えることだけではなく、そこに集う人と人との関係性を育てることなのだ、という点がとても心に残りました。また、「腐るお金」という考え方から、お金は貯め込むだけのものではなく、社会の中で循環させることで、人のつながりや地域の活力を生み出す力にもなるのだと気付きました。これまで当たり前だと思っていた「お金」や「街」のあり方を、違う視点から考えるきっかけになりました。
P.M.とてもワクワクするお話を本当にありがとうございました!仕組みに関してもすごく 学びになるところがたくさんありましたが それ以上に 今まで作り上げられてきた人の集まり コミュニティが何よりもの 財産なんだろうな 何よりも の価値と体験を生み出しているんだろうなという風に思いました!機会がありましたら是非 その一員として参加させていただきたいなと思いました!本当にありがとうございました!
Y.Z.
新井さんのお話の中で、日本円では1億円が経済の中で支払いに使われ、次の人へ渡っていく「お金の回転」が0.45回程度なのに対し、浮遊街のUiiでは最低でも4回以上、お金が人や事業者の間を循環する見込みだという話が特に心に残りました。同じ1億円でも、使われる仕組みによって経済の中で生み出される価値が大きく変わる。その仕組みを1億円規模で実証しようとしていることに、大きな可能性を感じました。そして何より、まだ始まったばかりのこの取り組みに、自分たちも立ち会っている。そんなワクワク感が会場全体に漂っていたことが印象に残っています。
I.T.